眼瞼下垂について考えてみる
テレビでも取り上げられ、身近になった「眼瞼下垂」という言葉
最近、当院では眼瞼下垂に関するお問い合わせが目立って増えています。テレビ番組などで取り上げられる機会も増え、「眼瞼下垂」という言葉自体が広く知られるようになってきました。
一方で、「なんとなく瞼が重い」「人から眠たそうと言われる」「頭痛や肩こりがあるので手術をしてほしい」といったご相談も増えていますが、こうした症状のすべてが眼瞼下垂の手術で解決するわけではありません。
その「瞼の重さ」、本当に眼瞼下垂でしょうか
特に10代後半から30代前半の方では、医学的な意味での眼瞼下垂に該当するケースは実はそれほど多くありません。この年代でまぶたの重さや見た目の印象を気にされている場合、二重の手術によって改善するケースも少なくないのです。
眼瞼下垂とまぶたのたるみ・二重のバランスの問題は、見た目には似ていても原因も治療法も異なります。ご自身の状態がどちらに当てはまるのかは、診察でしっかり見極める必要があります。
眼瞼下垂の診断基準
眼瞼下垂かどうかは、医師の主観ではなく客観的な基準にもとづいて判断されます。
日本形成外科学会『形成外科診療ガイドライン』の眼瞼下垂症診療ガイドラインでは、後天性眼瞼下垂症の手術適応となる定量的評価基準として、次のいずれかを満たす場合が挙げられています(注1)。
① 正面視時のMRD-1(瞳孔中心から上眼瞼縁までの距離)が2mm以下
② 上方視野の欠損角が12度、または24%以上
③ 下方視時のMRD-1が2mm以下となり、読字が困難となる下方視時の眼瞼下垂
この基準は、米国眼科学会(American Academy of Ophthalmology)による報告(Cahill, et al. 2011)にもとづくものです(注2)。
また、より簡便な指標として、Averbuch-Hellerらが脳卒中患者における眼瞼下垂の評価のために提唱した基準も参考として紹介されています(注3)。これは、
・瞼裂縦幅 8mm未満
・MRD-1 1.5mm未満
・下方視から上方視までの上眼瞼縁の振幅 12mm未満
の3項目のうち2項目以上を満たす場合に眼瞼下垂と判定するというものです。
このように、眼瞼下垂の診断には複数の客観的な計測が必要であり、自己判断ではなく専門医による診察が欠かせません。下記に、日本形成外科学会のガイドラインに基づく診断基準を図でまとめました。
図:眼瞼下垂症の診断基準(日本形成外科学会「形成外科診療ガイドライン」をもとに作成)
眼瞼下垂の主な症状
眼瞼下垂が進行すると、次のような症状が見られます。
初期には夕方になると目が重く感じる、肩が凝りやすい、緊張型の頭痛が起こりやすいといった症状が現れます。まぶたを開けにくい分、無意識に額の筋肉(前頭筋)を使ってまぶたを持ち上げようとするため、額に横シワができやすくなるのも特徴です。
中等度以上になると、常に眠たそうな印象を与えたり、視野の上外側が見えにくくなったりして、日常生活に支障が出てくることもあります。
当院で行っている治療法
当院では、眼瞼下垂に対して主に以下の2つの術式を行っています。
一つは皮膚切除単独(眉下皮膚切除)で、まぶたのたるみが主な原因である場合に適しています。もう一つは挙筋前転法(挙筋短縮術)で、まぶたを持ち上げる眼瞼挙筋そのものの働きが弱まっている場合に行う術式です。上まぶたの皮膚を必要最小限切開し、伸びてしまった眼瞼挙筋腱膜を瞼板に前方固定することで、まぶたの開きを改善します。機能改善を目的とした挙筋前転法は保険適用となります。
挙筋前転法は「熟練」が必要な手術です
挙筋前転法は、まぶたの開きの改善だけでなく、頭痛や肩こりといった随伴症状の改善も期待できる術式です。ただし、その効果と満足度には術者の技術差が大きく影響することが、形成外科診療ガイドラインでも指摘されています(注4)。
McCulleyらの報告(828例、9年間の経過観察)では、挙筋腱前転術を受けた患者の77%が満足のいく結果を得た一方、再手術を希望しないまでも結果に満足できなかった患者が14%存在し、術後1年以内で結果に不満だった患者は合計22.7%に上ったとされています(注5)。
また、Ben Simonらの報告では、挙筋腱前転術(blepharoplasty併用を含む88眼)のうち、整容的評価が「excellent」「good」であった割合は68%にとどまり、「poor」および再手術に至った割合が32%(うち再手術率14%)であったことが示されています(注6)。
これらの報告は、挙筋前転法が左右差の調整やまぶたのカーブ形成など非常に繊細な手技を要する手術であり、執刀医の熟練した技術と経験が結果を大きく左右することを裏付けています。
まとめ-まずは正確な診断から
「瞼が重い」「眠たそうに見える」といった悩みの背景には、眼瞼下垂だけでなく、二重のライン形成やまぶたのたるみなど、さまざまな原因が考えられます。ご自身の症状が医学的な眼瞼下垂に該当するのか、それとも別の要因によるものなのかを見極めるためには、MRD-1などの客観的な指標にもとづいた診察が不可欠です。
まぶたの重さや見た目でお悩みの方は、自己判断で手術を決める前に、まずは専門医による診察・診断を受けることをおすすめします。当院では、豊富な症例経験にもとづき、お一人おひとりの状態に合わせた最適な治療法をご提案しています。
参考文献
- 日本形成外科学会(編).形成外科診療ガイドライン 第Ⅴ編 眼瞼下垂症診療ガイドライン CQ10 後天性眼瞼下垂症の手術適応は,臨床上どのように決定されるべきか?
- Cahill KV, Bradley EA, Meyer DR. Functional indications for upper eyelid ptosis and blepharoplasty surgery: a report by the American Academy of Ophthalmology. Ophthalmology. 2011;118:2510-7.
- Averbuch-Heller L, Leigh RJ, Mermelstein V. Ptosis in patients with hemispheric strokes. Neurology. 2002;58:620-4.
- 日本形成外科学会(編).形成外科診療ガイドライン 第Ⅴ編 眼瞼下垂症診療ガイドライン CQ14 挙筋腱前転術は有効か?
- McCulley TJ, Kersten RC, Kulwin DR, et al. Outcome and influencing factors of external levator palpebrae superioris aponeurosis advancement for blepharoptosis. Ophthal Plast Reconstr Surg. 2003;19:388-93.
- Ben Simon GJ, Lee S, Schwarcz RM, et al. External levator advancement vs Müller's muscle-conjunctival resection for correction of upper eyelid involutional ptosis. Am J Ophthalmol. 2005;140:426-32.
