多汗症について解説します
猛暑になり、体臭が気になりませんか?
✓ どうしたら体臭が消えるの?
✓ 制汗剤って身体に悪い?
✓ ボトックスは効果があるの?
今日は『あせ』や『多汗症』についてお話ししたいと思います。
目次
1.汗の種類
2.汗の成分
3.汗と皮膚疾患
4.汗かきについて
1.汗の種類
汗とは、生まれたときからすでに皮膚に備わっている汗腺(エクリン腺)から分泌されます。
エクリン腺から分泌された汗は、すぐに蒸発して皮膚表面に残らないため、「汗をかいた」とは感じません。
このような汗を【不感知性発汗】といいます。
その量は一日に700〜900ml、つまり1L近くであり、もちろん、暑い時は多くなります。
これに対して「汗をかいた」と感じた汗は【感知性発汗】といいます。
また、精神的に緊張した時の汗は【精神性発汗】といい、手のひら、足の裏、脇の下に特に目立ちます。
スポーツの応援に夢中になっているときなどに使われる「手に汗をにぎる」という表現は、この精神性発汗を現しているものです。
手のひら、足の裏は面積は狭いですが、一般的に発汗が多く、全発汗量の30%はこれらからといわれています。
2.汗の成分
汗は無色透明な液体で、そのものに不快なにおいはなく、99〜99.5%が水分で残りが固形分です。
塩化ナトリウム(食塩)を含んでいるため、なめると少ししょっぱいです。
尿素や尿酸、乳酸、クレアチン、アミノ酸などが含まれ、尿の成分と似ています。
実際に、腎臓の働きが悪くなって尿量が減ると、汗の量が増えます。
汗に含まれる尿素と乳酸は、天然保湿因子として持続的な角層の水分保持に大きく関わるほか、角層の剥脱を促す作用があります。
また、汗には皮膚表面の感染防御に関与しているIg Aという免疫グロブリンが分泌されていることがわかり、皮膚表面の感染防御や消炎、免疫にも関与していると考えられています。
汗は身体にとって必要不可欠なものなのです。
3.汗と皮膚疾患
発汗が目立ち、余分な汗が皮膚の表面に流れ出るようになると、皮膚にもいろいろな変化がもたらされます。
汗の比重は通常1.005で、pH値は4.5〜5.5の間(酸性)です。ところが、発汗してくるとこのpH値は次第に上がって7近くになり、アルカリ性にかたむいていきます。そのため、皮膚の表面の細菌の発育や増殖を抑える働きが弱まり、結果的に皮膚が化膿しやすくなります。
夏に汗をかくと、皮膚が化膿しやすくなるのはこのためで、幼少児では皮膚細菌感染症の「とびひ」が増えることもあります。
また、皮膚の表面に汗をかくと、角層が水分を吸収してふやけてきます。皮膚と皮膚が擦れあう部分、例えば脇の下や股部では角層がはがれ、股ずれ(間擦疹)ができます。しかもこのような状態になると細菌感染を招きやすいのです。
角層がふやけると、排泄管の出口も狭くなります。ひとつは毛孔で、これが狭くなると、ニキビが悪化します。夏になると、ニキビの悪化が目立つのはこのためでもあります。
そして、汗孔も狭くなります。汗孔の出口付近にあるケラチン輪というものが、その変化をさらに促進させるのです。急に汗をかくと、汗は皮膚の表面に流れ出ることができずに角層内の汗管中にたまり、小さな水ぶくれを作ります。これが「あせも」で、水晶様汗疹とよばれます。
さらに汗が表皮で詰まると、湿疹を併発して皮膚の赤みが目立ってきます。
これを「紅色汗疹」と呼び、強い痒みを伴います。
角層の厚い手のひらと足の裏に限局して、汗管が閉塞することによってできるのが「汗疱」(異汗性湿疹)と呼ばれるもので、紅斑や漿液性丘疹、落屑(皮剥け)を伴います。
「汗臭い」という言葉が存在するように、汗をかいた人々の中にいると独特の臭いがします。
もともと汗には不愉快なにおいはありませんが、湿気が多く、汗が乾かない環境にいると目立ってきます。これは、汗が長く皮膚の表面に残っていることで、汗が細菌で分解されるために発生するにおいです。
風通しをよくして、汗が早く乾くようにすれば、汗臭いにおいは感じられなくなると考えられています。
4.汗かき(多汗症)について
気温が上がったり、少しの運動だけで普通の人以上に汗をかくことを「汗かき」といいます。
体質によるものが多いため病気とはいえないことが多いですが、バセドウ病(甲状腺機能更新症)、糖尿病、下垂体機能亢進などの内分泌疾患も汗かきの状態を伴います。
汗かきになったことで内分泌疾患だと気づく場合もあります。
また、妊娠や更年期前後にも汗かきになります。それぞれ黄体ホルモン、性ホルモンのアンバランスによるものと考えられています。
局所的な「汗かき」の場合、手のひらや足の裏に汗をかくことが多い他、脇の下や鼻の頭にも目立ちます。「脂手」「脂足」は、手のひら、足の裏の多汗症のことを言います。
これらの部位には脂腺がないのに、なぜ脂でべとべとしているかというと、汗で濡れている手のひらや足の裏に、手背や足背の皮脂が広がってくるからです。それが靴の中でむれて、皮膚の表面の細菌で分解されて嫌な臭いを生み出すのです。
これらの部分の汗かきで問題となるのは、精神的影響を受けやすいことです。(精神発汗)
例えば、人と握手しなければならないときなど、汗かきを気にするとますます悪化します。
以下のような場合、多汗症の可能性があります。
●汗の目立つ服が着られない
- 一日に何度もシャツを着替える
- 公共の場で人目が気になる
- 対人関係において気後れする
- 学業や仕事に集中できない
ワキの汗の状態が耐えられず、日常生活に頻繁に支障を感じている方は重症の多汗症と判定されます。
◎ボトックス【自費診療】
近年、主にシワ治療に使用されているボトックスがわきの多汗症の治療に使われています。
ボトックスには、神経の末端から分泌される伝達物質アセチルコリンの分泌を抑制する働きがあります。アセチルコリンは交感神経の末端で発汗を促しているため、このアセチルコリンの分泌をボツリヌストキシン(ボトックス)で抑制することで、過剰な汗の分泌をブロックして多汗症の症状を改善します。
汗の分泌を抑える効果は通常2~3日で現れ、約6ヵ月にわたって持続しますが、効果の程度や持続期間には個人差があります。発汗抑制効果を維持するためには、4ヵ月以上の間隔で反復投与が必要です。
◎ラピフォートワイプ(グリコピロニウムトシル酸塩水和物)
当院では原発性腋窩多汗症と診断された場合、治療薬としてラピフォートワイプを処方することもあります。
有効成分であるグリコピロニウムトシル酸塩水和物は、汗腺のムスカリンM3受容体へのアセチルコリンの結合を阻害することで、発汗を抑制します。
※ただし、抗コリン作用により悪化する恐れがあるため、閉塞隅角緑内障の患者や、前立腺肥大による排尿障害のある患者は禁忌です。
◎医療用制汗剤パースピレックス(塩化アルミニウム)
最近では制汗剤の「パースピレックス」や「パースピレックスコンフォート」なども知られています。※当院では取り扱っておりません。
「パースピレックス」の主成分は塩化アルミニウムであり、汗に含まれている水分と反応することで一時的に汗腺の栓となり発汗を防ぐ効果や、殺菌効果によって脇の下の臭いを軽減する効果もあります。
ただし、塩化アルミニウムの濃度が高いほど制汗効果が高いとされていますが、濃度が高いほどかぶれやすくなるため使用方法に注意が必要です。
また、エタノールも配合されており、角栓を汗腺の奥深くに運び、維持する働きがあります。そのため、パースピレックスはターンオーバーで角栓が排出される3〜5日程度は効果が持続します。
ただし、脱毛後48時間は使用ができないことや、金属アレルギーやアルコールアレルギーのある方は使用を控えていただくなどの注意もあります。
正しい使用方法を理解した上で、医療機関で購入してください。
制汗剤は長時間発汗を抑えるため、身体に悪いのでは?と言われることがあります。
脇からかく汗は、全身でかく汗の量から見ると微量であり、脇汗を止めたとしても他の汗腺からは汗が分泌されます。
正しく使用すれば、身体に悪影響がでる可能性は低いです。
次回、『わきが』『汗の対策とケア』についてお話ししたいと思います。