アトピー性皮膚炎の原因と治療
アトピー性皮膚炎は子供だけではなく、成人にも発症することがある慢性の皮膚疾患です。
アトピー性皮膚炎とは
アトピー性皮膚炎は悪くなったり良くなったりを繰り返す“痒みのある湿疹”を主病変とした皮膚疾患です。特に肘や膝の裏に左右対称に湿疹が出現することが特徴的であるといわれています。最近では免疫機能低下や皮膚バリア機能低下などいわゆる加齢による変化などでTh2が優位となり、若年者だけでなく高齢の方でもアトピー性皮膚炎が発症するといわれております。成人の方でもストレス、妊娠出産、ホルモンの影響などから子供の時に症状がなくても発症される方もおられます。
アトピー性皮膚炎の原因
アトピー性皮膚炎は様々な要素が原因となり、複雑に絡み合っているといわれています。ただ、発症する方には先天的に皮膚バリア機能が低下し、IgE抗体を産生しやすい素因(アトピー素因)を持っているといわれております。それに加えて食物や発汗、環境(ダニ・ほこりなど)、雑菌(細菌や真菌)など通常ならば問題にならないようなことでもアトピー性皮膚炎の発症や悪化に影響しているといわれています。これらを全て取り除くことは不可能ですが、少しでも悪化原因を取り除くことが重要です。
アトピー性皮膚炎の症状
アトピー性皮膚炎は急性病変と慢性病変に分けられます。急性病変は赤い発疹ができたり、かさかさ乾燥して粉を吹いたような状態になることが多いです。さらに皮膚を引っ搔き続けるため、皮膚に小さい傷がいくつもでき細菌が侵入し感染を引き起こす(蜂窩織炎)ことがあります。このようなかゆい→引っ掻くを続けていると、皮膚が分厚くなって盛り上がった状態(苔癬)になってきます。
アトピー性皮膚炎の有病率
報告によりばらつきはありますが、乳幼児で20%、学童期で10%、大学生で5%程度の罹患率(アトピー性皮膚炎診療ガイドラインより引用)であるといわれております。年齢が上がると減少する傾向があり、自然寛解も認められるようです。
アトピー性皮膚炎の診断基準
日本皮膚科学会診療ガイドラインより抜粋しております。
アトピー性皮膚炎の診断や重症度の参考になる検査項目
採血のみでアトピー性皮膚炎と診断することは不可能です。あくまで診断の補助といった役割が強いですが、最近ではTARCといって病勢を反映する検査項目(保険適応)もあります。TARCは外観上皮膚の状態改善していても、体内で起こっている炎症反応などを反映することで治療方針を決定するのに役立っています。TARCは外注検査になり結果がすぐに出ないため採血してから数日後の来院が必要となります。
アトピー性皮膚炎に似た疾患
接触性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、単純性痒疹、疥癬、汗疹、魚鱗癬、皮脂欠乏性湿疹、乾癬など
アトピー性皮膚炎の治療
治療としては外用剤、内服、注射などがあります。患者様の皮膚の状態や経過によって治療は異なりますが、最終的には保湿剤のみで苦痛なく過ごせることを目標にしてます。患者様に応じて適切な治療法を一緒に選択し、継続して頂くことが重要であると考えております。また、ステロイドを使用しない"脱ステロイド"治療は行っておりません。重症な方、入院の必要な方は近隣施設や総合病院をご紹介させて頂きます。
スキンケア
お風呂やシャワーの温度はぬるめにして下さい。汗をかいたら濡れたタオルで拭くかシャワーで洗い流すことをすすめています。石鹸などはよく泡立ててから優しく手で洗うようにしましょう。タオルなどでこすることは皮膚のバリア機能の低下に繋がります。爪はなるべく短く(引っかき傷にならないよう)しておいたほうがよいです。髪の毛は束ねるなどして皮膚にあまり接触しないようにしましょう。部屋は換気や掃除機をかけて清潔にし、ほこりやダニなどに注意して下さい。
保湿剤
保湿剤といっても様々な種類のものが挙げられます。モイスチャライザーといって水分を保持する作用(ヘパリン類似物資や尿素製剤)を持つもの、もうひとつはエモリエントといって皮膚から水分を蒸発させないもの(ワセリン)の2つに大別されます。保湿目的には使用感のよいモイスチャライザーがよく使用されます。一方エモリエントは皮膚の保護を目的に使用することが多く、少しべとべとします。アトピー性皮膚炎の場合皮膚が乾燥するため保湿を毎日行う必要があります。クリーム、ローション、フォーム(泡のような形状)、ワセリンタイプと色々ありますでその中でご自身が使いやすい薬剤を選択してもらい使用してもらいます。季節や症状によって使う保湿剤のタイプを変更することもあります。重要なことは毎日継続して塗布することです。症状が強くでる場合には1日2回以上塗布してもらうときもあります。また、室内は湿度を50%程度に保つようしましょう。
ステロイド軟膏
ステロイド軟膏はガイドライン上でも推奨度Aであり、アトピー性皮膚炎の治療の基本となります。ステロイド軟膏には5段階のランクがあり、年齢や塗る部位によって強さを変更していきます。保湿剤と混合して使用する場合もあります。症状が強い場合には1日2回以上の外用を推奨しております。ステロイド軟膏は非常に優れた外用剤ですが、副作用(全身に影響があるもの、皮膚が薄くなったり赤くなったりと局所に限局した副作用)などの点から使用を希望されない方もおられます。治療に対する考え方は患者様それぞれだと思いますので診察時にお話を伺いながら治療方針を決めていきたいと思います。
抗炎症外用剤
タクロリムス軟膏はカルシニューリンを抑制し、炎症を抑えます。ステロイドが使用できな場合などに対しても有効です。顔や首などに特に有効でステロイドの副作用としてあった皮膚の赤みや菲薄化といった副作用がないといわれておりますが、開始直後はピリピリ感や一時的に皮膚が赤くなったりすることがあります。ただこれらの副作用は一過性であることがほとんで改善を示すことがほとんどです。タクロリムス軟膏でリンパ腫や皮膚がんの発生のリスクがあるとの指摘がありますが、これもガイドライン上明確にはされていないのが現状です。おそらく今後おりはっきりしたことが分かってくるかと思いますが、リスクとしては低いと思われます。
プロアクティブ療法
症状が改善しても週に2回程度のステロイド軟膏やタクロリムス軟膏を継続することで良い状態を維持することを目的とした治療法です。アトピー性皮膚炎は症状が外観上きれいになっても皮膚の下で炎症が継続し、また繰り返すといったことが起きてきます。TARCなどの検査値を調べることで皮膚の下の炎症を判断することができ、それらを総合的に判断してこの治療は行われていきます。ただ、保湿は毎日継続することが必要です。
←アトピー性皮膚炎ガイドラインより引用
抗ヒスタミン薬
いわゆるかゆみ止めといわれており、最近では市販のものもあります。あくまでアトピー性皮膚炎の補助治療として使用されます。現在までに多数の薬が販売されておりますが、眠気が強く出る(第一世代)ものと眠気が出にくい(第二世代)のものがあります。当院では眠気が出にくいもの、また1日1回の服用で効果のあるものをよく使用しております。効果が不十分な場合には増量したり、他の薬剤と併用することもあります。
漢方薬
漢方も補助的治療として用いられることがあります。他の治療と組み合わせて用いることで有効であったとの報告もあります。漢方は副作用がなく安全といった印象がありますが、偽アルドステロン症(脱力、倦怠感、けいれんなど)や間質性肺炎といった重篤な副作用が出現することもあり注意が必要です。
非薬物療法
日常生活の見直し(スキンケアの仕方、ストレス除去など)、食物アレルゲンの除去、掻きむしる習慣の中止などがあります。
入院治療
細菌感染やウイルス感染などを併発した場合には入院治療が必要になることがあります。その場合には近隣移設をご紹介させて頂きます。